「ソウルで冷麺を食べたいけど、どの店に行けばいいのか分からない」——旅行前にそう感じる人は多いですよね。SNSを見ると「昔ながらの店は薄味すぎて拍子抜けした」という声もあれば、「辛くて酸っぱい冷麺が最高だった」という声もあり、そもそも冷麺が一種類ではないことに気づいていない人も少なくありません。実は冷麺には大きく分けて평양냉면(ピョンヤンネンミョン・平壌冷麺)と함흥냉면(ハムフンネンミョン・咸興冷麺)という、麺の材料も味付けもまったく違う2つの系統があります。この記事では、ソウルで冷麺を食べたい人向けに、種類の違い、老舗の値段感、注文の言い方までを整理していきます。
初めての人が迷ったら、味の想像がつきやすい咸興冷麺(辛口の비빔냉면)か、出汁がやさしい물냉면(水冷麺)から試すのが入りやすいとされています。平壌冷麺は슴슴한 맛(スムスムハンマッ・薄味)が身上で、「3回食べてようやく分かる味」と言われるほど好みが分かれる系統です。値段は老舗の平壌冷麺で1杯15,000〜18,000ウォンが目安(2026年4〜5月の報道時点)。営業を確認できたのは우래옥・을지면옥・을밀대の3店で、いずれも2026年の全国紙で個別に値上げが報じられており、営業継続が裏づけられています。咸興冷麺の元祖格である오장동흥남집や、焼肉店系列の봉피양についても運営元の存在は確認できましたが、当日時点の個別営業時間までは一次情報で確認しきれていません。
冷麺は一種類じゃない——平壌冷麺と咸興冷麺、まず何が違う?
「冷麺」とひとくくりに呼ばれがちですが、韓国で冷麺といえば大きく2つの系統があります。ひとつは평양냉면(平壌冷麺)で、そば粉を主原料にした麺を、冷たい出汁や동치미(トンチミ・大根の水キムチ)の汁に入れて食べる「水冷麺」が基本形です。もうひとつは함흥냉면(咸興冷麺)で、ジャガイモやサツマイモのでんぷんを主原料にした、コシが強くちぎれにくい麺を、辛い薬念(ヤンニョム)で和えて食べる「ビビン冷麺」が基本形になっています。
由来地も違います。平壌冷麺はもともと現在の北朝鮮・平壌地方の食文化で、朝鮮戦争後にソウルへ避難してきた北部出身者が各地に店を構えたことで広まったとされています。咸興冷麺は海に近い咸興地方の食文化に由来し、麺の上に가재미(カレイ)の刺身の和え物をのせるのが伝統的な形です。同じ「냉면」という名前でも、麺の原料も味の方向性も別物だと考えると、店選びの見通しが立てやすくなります。
初めてなら物냉면?비빔냉면?迷ったときの選び方
味付けの軸で見ると、冷麺は물냉면(ムルネンミョン・水冷麺)と비빔냉면(ビビムネンミョン・ビビン冷麺)の2つに分けられます。물냉면は冷たい出汁に麺を入れて食べる方式全般を指し、平壌冷麺はこの물냉면の代表格です。比빔냉면は出汁がほとんど無い状態で、辛い薬念に和えて食べる方式で、咸興冷麺はこちらの代表格にあたります。両者を店で頼むときは、메뉴(メニュー)にそれぞれ物냉면・비빔냉면として並んでいることが多く、名前を見ればどちらの系統かがだいたい判断できます。
初めて韓国で冷麺を食べる人にとっては、味の方向性が想像しやすい비빔냉면(辛口の咸興系)か、口当たりのやさしい물냉면の方が入りやすいとされています。反対に平壌冷麺の物냉면は、出汁の味がとても薄く、최初は物足りなく感じる人が多いことが複数の記事で紹介されています。旅行の限られた時間の中でどちらか一つしか試せないなら、まず自分がイメージしやすい味の方から挑戦するのが無難かもしれません。
平壌冷麺の老舗、営業を確認できた3店
ソウルには平壌冷麺の老舗が何軒もありますが、そのうち우래옥(ウレオク)・을지면옥(ウルジミョノク)・을밀대(ウルミルデ)の3店は、2026年4月・5月付の全国紙で個別に値上げのニュースとして報じられており、営業継続が裏づけられています(詳しくは後述の値段の章で紹介します)。우래옥は1946年創業とされ、牛肉の骨太な出汁が特徴です。住所の目安は서울 중구 창경궁로 62-29(을지로4가)で、乙支路(ウルチロ)4街駅から近いエリアにあります。
NAVER地図でも確認できます: 우래옥(NAVER地図)
을지면옥は、もとは을지로3街(世運商街3-2区域)で1985年から37年間営業していましたが、再開発により2022年6月25日に一旦閉店し、2年後の2024年4月22日に종로区낙원洞(住所目安: 서울 종로구 삼일대로30길 12)で再オープンしています。을밀대は서울 마포구 숭문길 24に本店を構え、豚骨・牛骨をブレンドした濃厚な出汁が特徴として紹介されています。3店とも訪問前に営業時間・定休日を公式情報や地図アプリの最新表示で確認することをおすすめします。

咸興冷麺の元祖格と、確認が届かなかった店
咸興冷麺の元祖格として知られるのが오장동흥남집(オジャンドンフンナムジプ)です。1953年創業とされ、イカ墨を練り込んだ黒っぽい麺と、牛骨出汁、가재미(カレイ)の刺身の和え物が特徴として紹介されています。住所の目安は서울 중구 마른내로 114(오장동)で、乙支路4街駅から徒歩圏内です。運営元の公式サイトの存在は確認できましたが、当日時点の営業時間・定休日については、店舗紹介サイトの記載にとどまり、公式・地図アプリでの一次確認までは至りませんでした。
NAVER地図でも確認できます: 오장동흥남집(NAVER地図)
もう一軒、選択肢として名前が挙がるのが봉피양(ボンピヤン)です。焼肉店「벽제갈비」を運営する外食企業が展開するブランドで、そば粉100%の순면(純麺)비빔냉면を提供していることが紹介されています。方背(방이)本店の住所目安は서울 송파구 양재대로71길 1-4です。こちらも運営元のブランドとしての存在は確認できましたが、支店個別の営業時間までは一次情報で確認できていません。訪問前には必ず公式情報や地図アプリの最新表示を確認してください。
오장동흥남집・봉피양については、住所・価格の情報を複数の店舗紹介サイトから拾っていますが、当日時点の営業有無まではこの記事の調査で確認しきれていません。とくに老舗や支店展開している店は、臨時休業や移転が起こることもあるため、訪問前に地図アプリの最新情報を確認することをおすすめします。
値段はいくら?2026年に入って続く値上げの実情
気になる値段ですが、2026年に入ってから老舗の平壌冷麺は軒並み値上げが続いています。2026年5月19日付の報道によると、우래옥の冷麺は16,000ウォンから18,000ウォンに(+2,000ウォン)、남포면옥は15,000ウォンから16,000ウォンに値上げされました。을밀대は16,000ウォン、필동면옥・을지면옥・평양면옥はいずれも15,000ウォンという水準です。ソウル全体で見た冷麺の平均価格は2026年3月時点で12,538ウォンとされ、前年同月比で+3.5%上昇しています(2026年8月25日確認)。
2026年4月17日付の別の報道では、うれ옥の値上げが2026年4月から実施されたこと、値上げ幅が+12.5%だったことが伝えられています。値上げの背景としては、出汁に使う牛肉の양지(すね肉)が前年比+11.1%、豚肉が+7.8%高騰したことが挙げられています。오장동흥남집の冷麺は複数の掲載サイトで15,000ウォン前後、봉피양の순면비빔냉면は18,000ウォンという情報がありますが、これらは店舗紹介サイトの記載であり、公式の現在価格ではない点に注意してください。1杯15,000〜18,000ウォンは、日本円に換算すると缶コーヒーを何本か買える程度の体感で、決して安い価格帯ではなくなってきています。
食べ方の作法——酢・からし・ハサミ、正解はあるのか
平壌冷麺の食べ方については、いろいろな流儀が語られます。北朝鮮式の食べ方として、酢を出汁に直接かけるのではなく、麺の方にかけてから出汁に絡める方法が紹介される一方で、酢やからしを入れるかどうかは個人の自由という見解も併存しています。「通は何も入れずに出汁の味をそのまま楽しむ」という言い方をされることもありますが、これも唯一の正解というより、ひとつの流儀として理解しておくのが実情に近そうです。
麺をハサミで切るかどうかも、よく話題になる作法です。「長い麺をすすって食べる方が食感と香りが活きる」という見方がある一方、食べやすさのためにハサミで切る人も多く、店側もハサミを渡してくれることがほとんどです。どちらが正しいという単一のルールがあるわけではなく、韓国国内でも意見が分かれる話題なので、旅行者としては気負わず、自分の食べやすい方法を選べば問題ないはずです。出汁のおかわりについては、店ごとに運用が異なる可能性があり、この記事の調査では統一的な事実を確認できませんでした。気になる場合はスタッフに直接聞いてみるのが確実です。
注文の言い方——물냉면・비빔냉면・반반・곱빼기
店に入って注文するときに覚えておくと便利な言葉をいくつか紹介します。まず基本は물냉면(ムルネンミョン)と비빔냉면(ビビムネンミョン、略して비냉)で、店員から「물냉면 드릴까요, 비빔냉면 드릴까요?(水冷麺にしますか、ビビン冷麺にしますか?)」と聞かれることがあります。どちらか選べないときは반반(バンバン・半々)という選択肢もあり、물냉면と비빔냉면を半分ずつ盛り合わせてもらえる店もあります。量を増やしたいときは곱빼기(コッペギ・大盛り)と伝えれば通じます。
会話に不安がある場合は、指差しやメニューの写真で伝える方法でも十分対応してもらえることが多いです。基本的な食堂での注文フレーズをまとめて確認しておきたい場合は、食堂の注文フレーズ集もあわせて参考にしてください。冷麺専門店は麺類だけのシンプルなメニュー構成の店も多く、他の食堂ほど注文が複雑にならないのも安心材料のひとつです。
会計のタイミングも、韓国の食堂では入店してすぐ・食べ終わってからのどちらもあり得るので、店員の動きを見ながら合わせるのが無難です。複数人で訪れる場合は、それぞれが物냉면・비빔냉면・반반を好きに選んでも問題なく、一つの麺類料理をシェアするより、各自が食べたい系統を注文する方が一般的とされています。麺の量に自信が無ければ、まず一人前を頼んでから、足りなければ追加を検討するくらいの気持ちで臨むと、注文で迷う時間を減らせます。
冷麺は夏だけの食べ物?冬にも食べられてきた歴史
「冷麺=夏の食べ物」というイメージを持つ人が多いですが、歴史をたどると事情は逆でした。冷麺を冷たいまま楽しむには氷が欠かせませんが、人工的に氷を作れなかった近代以前は、天然の氷が手に入る冬にしか食べられない食べ物だったとされています。朝鮮時代の文人である丁若鏞(정약용)や洪錫謨(홍석모)は、暖かいオンドル部屋の中で冷麺を楽しむ様子を記録に残しており、旧暦11月の冬の食べ物として紹介されていました(2026年8月25日確認)。
状況が変わったのは近代以降です。19世紀末にドイツで人工製氷機が発明され、1910年頃に朝鮮にも製氷所・製氷工場が普及したことで、1930年代には冷麺は季節を問わず楽しめる食べ物として全国に広がったとされています。現在では夏の風物詩として食べられることが多いものの、通年営業の専門店では冬でも冷麺を楽しめます。旅行の時期が真夏でなくても、老舗の冷麺専門店であれば普通に注文できると考えてよさそうです。
この歴史的な経緯を知っておくと、真冬にソウルを訪れて冷麺専門店に入ることへの抵抗感も少し薄れるかもしれません。むしろオンドルで暖まった室内で、冷たい麺をすする組み合わせは、もともとの食べ方に近い体験とも言えます。夏場は行列ができやすい老舗も、冬は比較的入りやすいことがあるとされ、暑い時期を避けて旅程を組む人にとっては狙い目の季節になり得ます。
- 冷麺はもともと氷が手に入る冬の食べ物として始まった
- 製氷技術の普及で1930年代以降は季節を問わず食べられるようになった
- 現在は夏の風物詩のイメージが強いが、専門店は通年営業が基本
よくある質問
まとめ
- 冷麺には平壌冷麺(そば粉・薄味の出汁)と咸興冷麺(でんぷん・辛い薬念)の2系統があり、味の方向性がまったく違う
- 初めてなら味の想像がつきやすい咸興冷麺の비빔냉면か、やさしい물냉면から試すのが入りやすい
- 営業を確認できたのは우래옥・을지면옥・을밀대の3店。오장동흥남집・봉피양は運営元の存在は確認できたが、当日の営業時間までは未確認
- 老舗の冷麺は2026年に入って値上げが続き、1杯15,000〜18,000ウォンが目安
- 食べ方の作法(酢・からし・ハサミ)に単一の正解は無く、流儀の違いとして理解しておくのが実情に近い
- 注文では물냉면・비빔냉면・반반・곱빼기の4語を覚えておくと困らない
- 冷麺はもともと冬の食べ物で、専門店なら季節を問わず楽しめる
「冷麺=夏に食べる辛くないもの」というイメージだけで店に入ると、平壌冷麺の薄味に戸惑うこともあるかもしれません。まずは種類の違いを知ったうえで、営業を確認できた老舗から気になる一軒を選んでみてください。日本で冷麺の味を思い出したくなったときのために、通販で手に入る冷麺の選び方は冷麺の通販ガイドで詳しく扱っています。
参考・出典
- WikiTree「평양냉면 vs 함흥냉면 확 구분되는 차이점, 제대로 알려드립니다」 https://www.wikitree.co.kr/articles/1051417 (2026年8月25日確認)
- 동해옥「함흥냉면과 평양냉면 면 차이 어떻게 다를까?」 https://www.donghaeok.com/함흥냉면-과-평양냉면-면-차이-어떻게-다를까/ (2026年8月25日確認)
- 위키트리「평양냉면 마니아들이 들으면 꽤나 놀랄지도 모르는 ‘평양냉면의 본래 맛’」 https://www.wikitree.co.kr/articles/1151470 (2026年8月25日確認)
- 헤럴드경제「한그릇 1만8000원…서울 유명 냉면집 또 가격 인상」(2026年5月19日付) https://biz.heraldcorp.com/article/10740776 (2026年8月25日確認)
- 아시아경제「냉면 한 그릇 2만원 눈앞…서민 음식값도 손 떨리네」(2026年4月17日付) https://view.asiae.co.kr/article/2026041709595799446 (2026年8月25日確認)
- 한국경제「을지면옥 2년 만에 종로에 새로 문 연다」 https://www.hankyung.com/article/2024031382641 (2026年8月25日確認)
- 경향신문「[주영하의 음식 100년](8) ‘사시사철’ 별미, 냉면」 https://m.khan.co.kr/culture/culture-general/article/201104262148275 (2026年8月25日確認)
- 서울시 발행「국민 냉면의 시작, 오장동 함흥냉면」 https://love.seoul.go.kr/articles/8933 (2026年8月25日確認)

