韓国の美容外科で全身麻酔の手術を受ける。そのとき手術室にはカメラがある——これは2023年から法律で決まっていることです。ただし「勝手に撮られている」わけではありません。患者が頼んだときに撮る仕組みで、頼み方にも、あとで見る条件にも、条文で決まった段取りがあります。
本記事は公的情報・公式情報をもとにした情報提供であり、特定の施術や医療機関を勧めるものではありません。医療上の判断は必ず医師にご相談ください。個別の医療機関がこの制度をどう運用しているかの判断は、この記事では行いません。
①医療法第38条の2は、全身麻酔など患者の意識がない状態で手術をする医療機関に、手術室内のCCTV設置を義務づけています。②患者または保護者が要請すれば、医療機関は正当な事由がないかぎり撮影を拒否できません。③撮る範囲は麻酔の開始から手術室を出るまで。録音は原則なし。④映像は30日以上保管。⑤🚨ただし頼まなければ撮られません。頼むのは手術の前で、所定の要請書と身分証が要ります。⑥映像を見るには手術に参加した医療人全員の同意か、捜査機関・裁判所・調停中の医療紛争調停仲裁院の要請が必要です。
2023年に始まった制度
根拠は医療法第38条の2(手術室内の閉回路テレビの設置・運営)です。2021年9月24日公布の法律第18468号で新設され、附則の「公布後2年を経過した日から施行」により2023年9月25日に施行されました。細かい手順を定める施行規則第39条の9から第39条の17までは、2023年9月22日に新設されています。
韓国語では수술실 CCTVと呼ばれています。ここで押さえておきたいのは、この制度が「設置の義務」と「撮影の義務」を別々に書いていることです。
医療法 第38条の2第1項
全身麻酔など患者の意識がない状態で手術を施行する医療機関の開設者は、手術室内部に個人情報保護法および関連法令による閉回路テレビを設置しなければならない。この場合、国および地方自治体は閉回路テレビの設置などに必要な費用を支援することができる。
対象は「全身麻酔など患者の意識がない状態で手術を施行する医療機関の開設者」です。局所麻酔だけの施術しかしない医療機関は、この条文の設置義務の対象ではありません。義務がかかるのは「施行する」ところで、個別の医療機関に実際にカメラがあるかどうかは、この記事では判断しません。

撮るのは「頼んだとき」
ここがいちばん誤解されやすいところです。カメラは設置されていますが、常時撮影しているわけではありません。
医療法 第38条の2第2項
患者または患者の保護者が要請する場合(医療機関の長や医療人が要請して患者または保護者が同意する場合を含む)、医療機関の長や医療人は、全身麻酔など患者の意識がない状態で手術をする場面を、第1項により設置した閉回路テレビで撮影しなければならない。この場合、医療機関の長や医療人は、次の各号のいずれかに該当する正当な事由がなければこれを拒否することができない。
- 1. 手術が遅れると患者の生命が危険になったり心身上の重大な障害をもたらす応急手術を施行する場合
- 2. 患者の生命を救うために積極的な措置が必要な危険度の高い手術を施行する場合
- 3. 専攻医の研修などの目的達成を著しく阻害するおそれがある場合(研修病院など)
- 4. その他、第1号から第3号までに準じる場合として保健福祉部令で定める事由がある場合
構造はこうです。患者が求める → 医療機関は撮らなければならない → 断れるのは4つの事由があるときだけ。求めなければ撮られない。求めれば、原則として撮られる。
第4号の「保健福祉部令で定める事由」は、施行規則第39条の12第2項が2つ挙げています。「撮影のためには手術を予定どおり施行できない時点で要請した場合」と、天災・通信障害・電子的侵害行為など不可抗力で撮影が不可能な場合です。前者が実務上いちばん効きます——直前に言い出しても間に合わないということです。
🚨 美容外科かどうかだけでは、拒否事由に当たるかどうかは決まりません。個別の手術がどの号に当たるかは施術の内容によるもので、この記事では判断しません。断られたときは、次に見るとおり手術の前に理由の説明を受けることになっています。
頼み方。要請書と身分証
施行規則第39条の11が手順を定めています。
医療法施行規則 第39条の11第2項
撮影を要請しようとする患者または保護者は、別紙第20号の2書式の「手術場面撮影要請書」を作成して医療機関の長や医療人に提出しなければならない。この場合、次の書類(電子文書を含む)をあわせて提示しなければならない。
- 1. 撮影を要請する者の身分証またはその写し
- 2. 患者本人の同意書。ただし、患者が同意できない状態であることを医療機関の長や医療人が確認した場合は提示しないことができる
- 3. 患者の保護者であることを証明できる書類
条文は3種類を並べていますが、第2号の本人の同意書と第3号の保護者の証明は保護者が要請する場面のものです。本人が頼むなら、条文が本人に求めているのは要請書と身分証です。保護者が代わりに頼む場合は本人の同意書と続柄の証明が加わります。同条第1項は、患者に意識と意思決定能力がある状態では、保護者は患者の意思に反して撮影を要請できないとしています。撮るかどうかを決めるのは、あくまで患者本人です。
そして医療機関の側にも義務があります。
同 第3項
医療機関の長や医療人は、全身麻酔など患者の意識がない状態で手術をする場面を撮影できることを患者があらかじめ知ることができるよう、医療機関内部に案内文を掲示するなどの方法で知らせ、撮影を要請する者に手術場面撮影要請書を提供しなければならない。
同 第4項
撮影を要請された医療機関の長や医療人は、正当な事由がなければ手術場面を撮影しなければならず、事由により撮影を拒否しようとする場合には、手術をする前に撮影を要請した者に拒否の事由を説明しなければならない。
案内文の掲示などの方法で知らせるのは医療機関の義務で、要請書も医療機関が用意することになっています。「そんな制度は知らない」と言われたら、この条文が根拠になります。医療機関は要請の受付と実施・拒否の記録を撮影要請処理台帳に残し、3年間保管します(第5項・第6項)。

撮る範囲と、録音のこと
医療法施行規則 第39条の10
撮影の範囲は、患者が麻酔される開始時点から患者が手術室を退室する時点までとする。
医療法 第38条の2第3項
手術をする場面を撮影する場合、録音機能は使用できない。ただし、患者および当該手術に参加した医療人など情報主体全員の同意を受けた場合は、この限りでない。
映像は麻酔から退室まで。音声は原則入りません。録音まで求めるなら、施行規則第39条の13により、撮影要請書とあわせて「手術場面撮影中録音要請書」(別紙第20号の3書式)を出し、医療機関が手術に参加する医療人などから録音同意書(別紙第20号の4書式)を取って全員の同意を確認する手順になります。手術中に応急で医療人が交代・追加投入され、同意していない人が加わったときは録音を中断することになっています(同条第2項)。
映像は30日以上、医療機関が保管する
医療法 第38条の2第9項
医療機関の長は、第2項により撮影した映像情報を30日以上保管しなければならない。
「30日以上」です。施行規則第39条の17は、30日を過ぎた映像を内部管理計画で定めた周期で削除するとしつつ、削除してはならない場合を2つ置いています。閲覧・提供の要請を受けた場合と、要請する予定であることを理由に「映像情報保管延長要請書」(別紙第20号の5書式)と手続の準備を証明する書類を提出した場合です。延長は要請日から30日以内で、さらに延ばすなら期間終了日までに再度提出します(同条第3項)。
つまり30日を過ぎれば、内部管理計画の周期で削除されうる映像です。帰国してから「あの手術のときの映像を」と思いついても、30日を過ぎていれば残っていない可能性があります。残しておきたいなら、帰国前に延長要請を出す——ここが日本から来る患者にとっていちばん現実的な論点です。
見られるのは、限られた場合だけ
撮った映像は、患者でも自由には見られません。
医療法 第38条の2第5項
医療機関の長は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いて、撮影した映像情報を閲覧させたり提供したりしてはならない(写しの発給を含む)。
- 1. 犯罪の捜査と公訴の提起・維持、法院の裁判業務の遂行のために関係機関が要請する場合
- 2. 韓国医療紛争調停仲裁院が、医療紛争の調停または仲裁の手続開始以後に、患者または保護者の同意を受けて当該業務の遂行のために要請する場合
- 3. 患者および当該手術に参加した医療人など、情報主体全員の同意を受けた場合
第3号に注目してください。患者本人が見たいだけでも、手術に参加した医療人全員の同意が要る作りです。施行規則第39条の15第2項は、その場合に各情報主体の「映像情報閲覧・提供同意書」(別紙第20号の6書式)を添えて「映像情報閲覧・提供要請書」(別紙第20号の5書式)を出すとしています。要請を受けた医療機関は、拒否できる場合を除き10日以内に閲覧・提供の方法を通知し、閲覧させるか提供します(同条第3項)。拒否するときも10日以内に理由を通知します(同条第4項)。
第2号の調停仲裁院については、医療紛争の調停窓口をまとめた記事で扱いました。調停または仲裁の手続が始まったあとなら、患者の同意を得た仲裁院が映像を要請できる——この制度は、そこで効いてくる設計です。
第8項は、医療機関の開設者が保健福祉部長官が定める範囲で閲覧などにかかる費用を要請者に請求できるとしています。金額はこの記事では特定していません。
映像の扱いには重い罰則がある
- 第5項に違反して映像を閲覧させ、または提供した者/第6項に違反して映像を探知・漏出・変造・毀損した者/第7項に違反して目的外に使用した者 … 第87条の2第2項第3号の2〜第3号の4により5年以下の懲役または5千万ウォン以下の罰金
- 第2項の手続によらずに、設置したCCTVで医療行為の場面を任意に撮影した者 … 第88条第3号により3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金
- 第4項の安全性確保措置を怠って映像を紛失・盗難・流出・変造・毀損された者 … 第88条の2第2号により2年以下の懲役または2千万ウォン以下の罰金
- 第1項〜第4項・第9項の違反(設置しない、要請されたのに撮らない、30日保管しない、など) … 第90条により500万ウォン以下の罰金
「患者の要請を無視して撮らない」より「勝手に撮る」「勝手に見せる」のほうが重い——並べるとそういう設計です。映像は患者を守るためのものであると同時に、手術室にいた全員の個人情報でもある、という位置づけがここに出ています。第11項が「この法律で定めるもののほかは個人情報保護法による」としているのも同じ理由です。個人情報保護法の同意の枠組みはクリニックで署名する同意書を整理した記事にまとめています。
渡韓する患者としての段取り
- 全身麻酔かどうかを先に確かめる … 設置義務も撮影義務も「全身麻酔など意識がない状態」の手術が対象。局所麻酔だけなら、この条文の外です
- 撮ってほしいなら、手術の前に要請書を出す … 直前だと「予定どおり施行できない時点」として断られうる(施行規則第39条の12第2項第1号)。カウンセリングの段階で言っておくのが確実です
- 身分証を持っていく … 要請書に添えるのは「身分証またはその写し」。パスポートで受け付けるかは事前に確かめておくと確実です。条文上の「保護者」が代わりに出すなら、本人の同意書と続柄の証明も要ります。単なる同行者や通訳は「保護者」ではありません
- 音声が要るなら別の要請書 … 全員の同意が要るので、断られることもあります
- 残しておきたいなら、帰国前に保管延長要請書を出す … 30日を過ぎれば削除されうる映像です
- 見るには全員の同意が要る … 自分の手術でも、自分一人の判断では見られません。調停に進むなら仲裁院の経路があります
手術の同意書そのものの決まりは書類と手数料を整理した記事に、登録した医療機関が背負う義務は外国人患者向け医療機関の義務をまとめた記事にあります。
この記事で答えられないこと
- 個別の医療機関にカメラがあるか、要請に応じているか——判定しません。条文が何を求めているかを示すところまでです。
- 個別の手術が「応急」「高リスク」の拒否事由に当たるか——施術の内容によるため、条文だけからは決まりません。
- 閲覧の費用——第8項は「保健福祉部長官が定める範囲」とだけ定めており、金額は特定していません。
- 設置基準の中身(施行規則別表7の2)——カメラの画質や台数などの技術基準は、この記事では扱っていません。
- 映像が実際に役に立つかどうか——この記事は撮影・保管・閲覧の制度を示すもので、医療事故の立証にどう働くかは扱っていません。
よくある質問
まとめ
- 全身麻酔など意識のない手術をする医療機関は、手術室にCCTVを設置する義務がある(医療法第38条の2第1項)。局所麻酔だけの施術は対象外。
- 撮るのは患者か保護者が要請したとき。要請されたら4つの事由がないかぎり拒否できない(第2項)。
- 頼むには手術場面撮影要請書+身分証。保護者なら本人の同意書と続柄の証明も。直前だと断られうるので手術の前に。
- 撮る範囲は麻酔の開始から手術室退室まで。録音は原則なし。
- 映像は30日以上保管。過ぎれば削除されうるので、残したいなら保管延長要請書を帰国前に。
- 見るには手術に参加した全員の同意か、捜査機関・裁判所・調停中の仲裁院の要請。
- 勝手に撮る・見せる・漏らすほうが、撮らないより罰が重い。
情報源と確認日
- 国家法令情報センター「의료법」[시행 2026. 4. 7.] 법률 제21524호(第38条の2・第87条の2第2項・第88条・第88条の2・第90条、附則〈법률 제18468호, 2021. 9. 24.〉)https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=285327&chrClsCd=010202&urlMode=lsInfoP&efYd=20260407&ancYnChk=0 (入口は https://www.law.go.kr/법령/의료법 /2026年9月5日確認)
- 国家法令情報センター「의료법 시행규칙」[시행 2026. 6. 12.] 보건복지부령 제1177호(第39条の9〜第39条の17)https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=286963&chrClsCd=010202&urlMode=lsInfoP&efYd=20260612&ancYnChk=0 (2026年9月5日確認)

