韓国で美容施術を受けて、結果や経過に納得がいかなかったとき。話し合いがつかなければどこへ行けばいいのか——これは渡航前に知っておく価値のある話です。韓国には医療事故の紛争を専門に扱う公的機関があり、しかもその機関は外国人にも適用されると明記しています。ただし、期待しすぎないほうがいい条件もあります。
本記事は公的情報・公式情報をもとにした情報提供であり、特定の施術や医療機関を勧めるものではありません。医療上の判断は必ず医師にご相談ください。個別の紛争の見通しについては専門家にご相談ください。
①韓国には韓国医療紛争調停仲裁院という公的機関があり、医療事故の調停・仲裁を扱っています。②同院は「大韓民国国民でない外国人にも適用される」と公式サイトに明記しています。③処理期間は手続開始から90日以内(30日まで延長可)。同院は訴訟の1審判決までを平均26.3か月としています。④🚨ただし多くの場合、相手方(医療機関)が応じなければ却下されます。相手の同意なしに自動で始まるのは死亡・1か月以上の意識不明・重症の障害に当たる場合だけです。⑤調停が成立すると裁判上の和解と同じ効力、仲裁の判定は確定判決と同じ効力を持ちます。
韓国医療紛争調停仲裁院とは
韓国医療紛争調停仲裁院(한국의료분쟁조정중재원)は、「医療事故被害救済および医療紛争調停等に関する法律」にもとづいて設けられた機関です。公式サイトは同法第1章第1条をこう引いています。
医療事故被害救済および医療紛争調停等に関する法律 第1条(同院サイトの引用・訳)
この法律は、医療紛争の調停および仲裁等に関する事項を規定することにより、医療事故による被害を迅速・公正に救済し、保健医療人の安定的な診療環境を造成することを目的とする
対象は「保健医療人が患者に対して実施する医療行為により、人の生命・身体および財産に被害が発生した場合」とされています。同院は適用の範囲について、同法の施行日である2012年4月8日以後に最初に終了した医療行為などによって生じた医療事故から適用される、とも書いています。
外国人にも適用される、と書いてある
ここがこの記事でいちばん伝えたい部分です。同院の「制度紹介」ページには、適用対象としてはっきりこう書かれています。
韓国医療紛争調停仲裁院 制度紹介ページ(訳)
대한민국 국민이 아닌 외국인에도 적용
(大韓民国国民でない外国人にも適用)
🚨 短い一文ですが、意味は小さくありません。韓国の消費者・医療の窓口を調べていくと、「外国人・非居住者が使えるかどうか」が公式情報からは読み取れないことがほとんどです。この制度については、運営機関自身が適用対象として外国人を明示しています。
条文の側にも、外国人を想定した規定があります。同法第27条第1項は「医療紛争の当事者またはその代理人」が申請できるとし、第2項が代理人になれる人を挙げています。法定代理人・配偶者・直系尊卑属・兄弟姉妹、当事者である法人や保健医療機関の役職員、弁護士、そして当事者から書面で代理権を授与された者です。
同法 第27条第2項 ただし書き(訳)
ただし第4号(書面で代理権を授与された者)の場合は、第1号に該当する人がいないか、外国人など保健福祉部令で定める場合に限る
🚨 「外国人など」が名指しで書かれています。家族が韓国にいない外国人でも、書面で代理権を授与した人を代理人に立てる道が条文上は用意されているということです。
ただし「適用される」と「実際に使いやすい」は別です。保健福祉部令が具体的に何を定めているか、申請書類の言語、帰国後の進め方までは確認できていません。この記事では制度の輪郭までを示します。

ただし、多くの場合は相手が応じないと始まらない
制度の作りとして、ここは正確に知っておく必要があります。調停は申請すれば必ず始まるわけではありません。
同院の「調停手続き案内」によると、流れはこうです。申請を受け付けたあと、被申請人(相手方の医療機関)に調停申請書が送達され、被申請人が同意すれば手続きが開始されます。同意しない場合は却下(각하)です。
この原則に例外があります。同院は、2016年11月30日から施行された改正法についてこう説明しています。
韓国医療紛争調停仲裁院 調停手続き案内(訳)
医療事故による死亡、1か月以上の意識不明、「障害者福祉法」第2条による障害者のうち障害の程度が重症に該当する場合であって政令で定める場合は、申請人の調停申請時に被申請人の同意がなくても調停手続きが自動的に開始されます
🚨 ここが美容施術の読者にとって大きい。自動開始の対象は死亡・1か月以上の意識不明・重症の障害です。美容施術をめぐるトラブルの多くは、痛ましいことではあってもこの3つには当たりません。つまり、相手の医院が応じなければ調停は始まらない——これが制度の現在地です。
条文はさらに具体的です。同法第27条第8項は、調停申請書の送達を受けた被申請人が調停に応じる意思を通知することで手続きが開始されるとしたうえで、「被申請人が調停申請書の送達を受けた日から14日以内に応じる意思を通知しなかった場合、院長は調停申請を却下する」と定めています。相手が黙っていれば、14日で終わってしまうということです。
自動開始のほうにも続きがあります。第27条第9項が死亡・1か月以上の意識不明・重症の障害について自動開始を定める一方、第27条第10項は、その場合でも被申請人が送達を受けた日から14日以内に異議を申し立てられるとしています。ただし無条件ではなく、①申請人が申請前に医療法第12条第2項違反または刑法第314条第1項に当たる行為をした場合 ②虚偽の事実または事実関係で申請したことが明白な場合 ③その他保健福祉部令で定める事由のいずれかに当たる場合に限られます(異議を受けた委員長は7日以内に、理由がなければ棄却、理由があれば院長が申請を却下します。第27条第11項)。
申請には期間の制限もあります。第27条第13項は、調停の申請を①医療事故の原因となった行為が終了した日から10年 ②被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った日から3年の期間内にしなければならない、と定めています。
「申し立てれば公的機関が動いてくれる」と考えて渡航するのは、正確ではないということになります。
始まった場合に何が起きるか
逆に言えば、始まったあとの枠組みはしっかりしています。同院の説明から順に見ます。
- 期間 … 同法第33条第1項が手続きが開始された日から90日以内に調停決定をするとし、第2項が1回に限り30日まで延長できるとしています(延長するときは理由と期限を明示して申請人に通知する)。同院の案内には、資料の提出や後遺障害などに要した期間は処理期間に含まれないため、その場合は遅れることがある、とも書かれています
- 比較対象 … 同院は同じページで、訴訟の場合は1審判決まで平均26.3か月としています
- 誰が判断するか … 医療事故鑑定団が事実調査・過失および因果関係の究明を担い、医療紛争調停委員会が解決案を示す作りです。どちらも5人の委員で構成され、母体は保健医療人・法曹・消費者団体などから選ばれた100〜300人とされています
結論の効力も明記されています。
成立した場合の効力(同院サイトの記述・訳)
調停 … 調停決定書の正本が当事者に送達され、両当事者が調停決定に同意するか同意したものとみなされるときは、裁判上の和解と同一の効力。手続きの途中で当事者間に合意が成立して調停調書が作成された場合も同じ
仲裁 … 仲裁の判定は確定判決と同一の効力
さらに、同院は調停が成立したあとに決定内容が履行されない場合について案内を置いています。大法院規則にもとづき裁判所から執行文の付与を受けて強制執行の手続きを進められるという説明です(仲裁の判定について同じ手続きになるかは、この案内からは読み取れませんでした)。手順としては、同院で「調停書送達証明書」の発給を受け、同院の所在地を管轄する裁判所で執行文の付与を受け、執行の対象がある地方裁判所の執行官事務室へ、という流れが示されています。

「調停」と「仲裁」は別のもの
同院は2つの手続きを扱っていて、名前が似ているので整理しておきます。
- 調停(조정) … 一方の当事者が申請して手続きが開始され、合意案を導いて双方に勧告する。双方が同意するか、同意したものとみなされたときに成立する(第36条第2項は、調停決定書の送達を受けた日から15日以内に意思表示がないときは同意したものとみなすと定めています)
- 仲裁(중재) … あらかじめ当事者間で「同院の決定に従う」と書面で合意したうえで申請する。同院の決定に従う枠組み。同院は調停手続きの進行中でも仲裁の申請ができるとしています
仲裁のほうが結論は強い(確定判決と同一の効力)かわりに、先に「従います」という書面の合意が要るという関係です。
渡航前にできる確認
もめてからの制度を知るのも大事ですが、先にできることのほうが実用的です。
条文の言葉を正確に引くと、登録が必要なのは「外国人患者を誘致しようとする医療機関」です(医療海外進出および外国人患者誘致支援に関する法律 第6条第1項)。外国人を診療すること自体に登録が要る、という規定ではありません。そのうえで、登録の要件のひとつに医療事故賠償責任保険または医療賠償共済組合への加入が置かれています(同項第2号)。
🚨 つまり登録されているという事実は、保険または共済に入っていることを確認する手がかりになります。ただし登録は賠償の金額や支払いを保証するものではありません。看板や口コミではなく登録の有無で見る理由がある、という程度の話です。登録された医療機関かどうかの調べ方は登録医療機関の調べ方をまとめた記事にまとめてあります。
あわせて、契約と支払いの段階で残せるものを残しておくことも効きます。契約書と約款の扱いは前払いと返金を整理した記事、支払い方法と領収書の決まりは支払いの法律を整理した記事にあります。
お金の話と、医療事故の話は窓口が違う
混同されやすいところなので分けておきます。
- 契約や返金でもめている … 約款や解約金の話です。韓国消費者院の被害救済や、公正取引委員会の枠組みが関わります。前払いと返金の記事で扱いました
- 医療行為そのもので被害が生じた … こちらが本記事の医療紛争調停仲裁院です。同院は対象を「医療行為により生命・身体および財産に被害が発生した場合」としています
🚨 しかも、どちらかを選ぶ必要があります。同法第27条第3項は却下事由を並べていて、そのひとつが「すでに当該紛争調停事項について、消費者基本法第60条による消費者紛争調停委員会に紛争調停が申請された場合」です(すでに裁判所に訴えが提起された場合も同じ)。消費者側の窓口に先に出していると、医療紛争の調停は却下されうる——ただし条文には、調停申請が受理される前に取り下げられたか却下された場合はこの限りでない、という但し書きもあります。
「返金してほしい」のか「医療行為の結果について争いたい」のかで、行き先が変わるということです。
リスクをどう考えるか
この記事は紛争処理の制度だけを扱うので、施術そのものの効果・安全性は評価しません。施術に関するリスクの考え方は韓国の美容医療の確認順序をまとめた記事にあります。ここでは、この話題に固有のものを挙げます。
- 制度があることと、使えることは違う … 上に書いたとおり、多くの場合は相手が応じなければ却下されます。制度の存在を理由に不安を下げすぎないでください
- 帰国してからの手続きは重い … 同院は訪問相談を案内しており、所在地はソウル特別市中区です。日本から進める場合の実務は、公式サイトの記述からは分かりませんでした
- 条文にあることと、運用は別 … この記事は条文と運営機関の案内の両方を見ていますが、実際の受理の運用、外国人の申請実績、必要書類までは確認していません
この記事で答えられないこと
- 申請の言語・書式。公式サイトに申請書式のページはありますが、外国人向けの運用までは読み取れませんでした。代理人については第27条第2項が「外国人など」を挙げていますが、保健福祉部令が何を定めているかは確認していません
- 費用。申請の手数料がいくらかは確認できていません
- 申請期間の起算や中断がどう判断されるか。期間そのものは条文にありますが(下記)、個別の当てはめは専門家の判断になります
- 相談窓口の電話番号。公式サイトの表示がスクリプトで描画されており、確認できませんでした。同院サイトで直接ご確認ください
- 実際に外国人の申請が受理された例があるか。件数などの統計は確認していません
よくある質問
まとめ
- 韓国には韓国医療紛争調停仲裁院があり、医療事故の調停・仲裁を扱っている
- 同院は「大韓民国国民でない外国人にも適用」と公式サイトに明記している。ただし実務の進め方までは公開情報から読み取れなかった
- 🚨 相手方が同意しなければ却下される。自動で始まるのは死亡・1か月以上の意識不明・重症の障害の場合だけで、美容施術の多くは当たらない
- 始まれば90日以内(30日まで延長可)。同院は訴訟の1審判決までを平均26.3か月としている
- 調停の成立は裁判上の和解、仲裁の判定は確定判決と同一の効力。不履行なら執行文を得て強制執行できる
- 登録が必要なのは「外国人患者を誘致しようとする医療機関」で、その要件に賠償責任保険または共済への加入が入っている。ただし登録は賠償を保証するものではない
- 🚨 相手が14日以内に応じなければ却下(第27条第8項)。また消費者紛争調停委員会に先に申請していると却下されうる(第27条第3項)
- 外国人については第27条第2項の但し書きが「外国人など」を名指しし、書面で代理権を授与した者を代理人にできるとしている
制度があることは心強い一方で、入口に相手の同意という関門がある——両方を知ったうえで、渡航前の準備のほうに重心を置くのが現実的だと思います。
この記事の情報源と確認日
- 韓国医療紛争調停仲裁院「制度紹介」(適用対象・外国人への適用・処理期間・鑑定団と調停委員会・効力・強制執行) https://www.k-medi.or.kr/web/lay1/S1T130C154/contents.do (2026年9月1日確認)
- 韓国医療紛争調停仲裁院「調停手続き案内」(手続きの流れ・自動開始の要件) https://www.k-medi.or.kr/web/lay1/S1T155C243/contents.do (2026年9月1日確認)
- 韓国医療紛争調停仲裁院「仲裁手続き案内」 https://www.k-medi.or.kr/web/lay1/S1T155C244/contents.do (2026年9月1日確認)
- 韓国医療紛争調停仲裁院 トップページ・相談案内 https://www.k-medi.or.kr/ (2026年9月1日確認)
- 国家法令情報センター「의료사고 피해구제 및 의료분쟁 조정 등에 관한 법률」[시행 2025. 6. 21.] 법률 제20445호(第1条・第2条第1号・第27条第1項〜第3項・第8項〜第10項・第13項・第33条・第36条) https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=265473&efYd=20250621 (2026年9月1日確認)
- 国家法令情報センター「의료 해외진출 및 외국인환자 유치 지원에 관한 법률」[시행 2026. 5. 12.] 법률 제21112호(第6条第1項第2号) https://www.law.go.kr/법령/의료해외진출및외국인환자유치지원에관한법률 (2026年9月1日確認)

