韓国旅行の話をしていると、必ずといっていいほど誰かが口にする一皿があります。「あの、ものすごく匂う魚」——ホンオフェ(홍어회)です。名前は知っていても、正体をきちんと説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。アンモニア臭が強いことばかりが先に伝わって、「罰ゲームみたいな食べ物」というイメージで止まっている人も多いはずです。でも、あの匂いには理由があり、頼み方ひとつで初めての人でも無理なく試せる型があります。この記事では、におい正体の科学的な仕組みから、本場とされる地域の話、発酵度合いの選び方、失敗しない頼み方までを整理しました。
ホンオフェが匂うのは、腐っているからではなく、体内にためこんだ尿素が発酵の過程でアンモニアに変わるためです。発酵度合いは弱め・中くらい・強めの三段階があり、初めてなら弱めを選び、単体ではなく茹で豚とキムチを合わせたサマプ(삼합)で食べるのが失敗しにくい型です。ソウル市内で現在営業している専門店を今回の調査では確認しきれなかったため、店名を挙げるより先に、地図アプリで探して訪問前に確認する手順を後半でまとめています。
ホンオフェ(홍어회)とは?まず正体を知っておく
ホンオフェのホンオ(홍어)は、エイに近い仲間に分類される軟骨魚の一種です。体の柔らかい軟骨魚は、ふつうの魚とは体の仕組みが少し違い、その違いがあの独特の匂いにつながっています。ホンオフェは加熱せず、薄く切った状態で刺身のように出されるのが基本の形で、見た目だけなら白身魚の刺身と大きく変わりません。むしろ最初に驚くのは見た目ではなく、パックや器を開けた瞬間に立ちのぼる香りのほうでしょう。
全羅南道(전라남도)の郷土料理として紹介されることが多く、単品のホンオフェだけでなく、茹で豚肉と熟成キムチを合わせたサマプ(삼합)という食べ方まで含めて、ひとつの食文化として語られます。「匂いが強い珍味」という一言で片づけられがちですが、発酵の仕組みを知っておくと、においへの身構え方がだいぶ変わるはずです。韓国には、生きたままのタコを使うサンナクチを扱う店を整理した記事のように、見た目や仕組みを知っているかどうかで身構え方が変わる料理がほかにもあります。次の項目から、ホンオフェの仕組みを順番に見ていきます。
なぜあんなに匂うのか?尿素とアンモニアの化学
ホンオを含む軟骨魚には、ほかの魚にはあまり見られない特徴があります。体内に尿素(요소)を多くためこみ、それを浸透圧の調整に使っているという点です。多くの魚は老廃物をすばやく体外に出しますが、軟骨魚はこの尿素を体の中に残したまま生きています。生きているあいだは問題になりませんが、時間が経つと、この尿素が匂いの主役に変わっていきます。
時間が経つにつれ、体表や体内にいる菌(主にミクロコッカス属とされます)が持つウレアーゼという酵素が、この尿素をアンモニア(NH3)に分解していきます。요소(尿素)がアンモニアに変わることで、あのツンとした独特の香りが生まれる、というのが正体です。腐敗臭のように雑菌がたんぱく質を壊して発生する匂いとは、そもそもの成り立ちが違います。
発酵と腐敗はどう違う?強アルカリが守っている理由
「発酵」と「腐敗」は見分けがつきにくい言葉ですが、ホンオの場合は仕組みの違いがはっきりしています。尿素から生まれたアンモニアは強いアルカリ性で、目安としてpH9以上になるとされています。この強アルカリの環境が、雑菌の繁殖を抑える働きをするため、冷蔵技術がなかった時代でも保存が利く食べ物として重宝されてきました。防腐剤を使わずに日持ちする、という点が発酵食品としてのホンオの面白さです。
韓国語版の資料でも、ホンオはアンモニアとトリメチルアミンの含有量が高い魚として説明されており、伝統的な熟成方法としては甕(かめ)に藁(わら)や塩などと一緒に入れて発酵させるやり方が紹介されています。密閉した甕の中でじっくり時間をかけることで、尿素の分解がゆっくり進み、強い匂いを持ちながらも安全に食べられる状態に仕上がっていく、という理屈です。
発酵食品は仕組みとして安全に作られていても、体質や体調によって合う・合わないが分かれます。初めて口にするときは少量から試し、体調がすぐれないときや持病がある場合は無理に食べず、必要であれば医師に相談してください。
黒山島(フクサンド)と羅州(ナジュ)——獲れる場所と名物になった場所
ホンオの話でややこしいのが、「よく獲れる場所」と「名物として有名な場所」がずれている点です。ホンオは伝統的に黒山島(フクサンド)周辺の海で多く獲れるとされてきました。一方で、発酵させたホンオの名産地として知られているのは、そこから離れた内陸の羅州(ナジュ)、なかでも영산포(ヨンサンポ)と呼ばれるエリアです。
| 地名 | ホンオとの関係 |
|---|---|
| 黒山島(フクサンド) | 伝統的にホンオがよく獲れるとされる海域 |
| 羅州(ナジュ)・영산포 | 発酵させたホンオの名産地として知られる内陸のエリア |
| 木浦(モッポ) | 黒山島と内陸をつなぐ港町。全羅南道のグルメを語るときによく登場する |
冷蔵技術がなかった時代、板鰓類(ばんさいるい、軟骨魚の仲間)は自然に日持ちする性質を持つ数少ない魚だったとされています。黒山島でとれたホンオが船で内陸まで運ばれるあいだに、自然と発酵が進んでいった——というのが、羅州が発酵ホンオの産地として語られるようになった背景としてよく紹介される言い伝えです。正確な歴史の一次資料までは今回のリサーチでは確認できていないため、確定した史実というより「そう伝えられている話」として受け止めておくのがよさそうです。
サマプ(삼합)って何?三種盛りで食べる理由
ホンオフェを単体でそのまま食べる食べ方もありますが、韓国でより定番とされるのがサマプ(삼합)という組み合わせです。発酵させたホンオに、茹でた豚バラ肉(수육)と熟成したキムチ(묵은지)を合わせて、三つをまとめて口に運ぶ食べ方を指します。名前の通り「三つが合わさる」料理で、それぞれの役割がはっきり分かれているのが特徴です。
茹で豚の脂がアンモニアの香りを包み込み、熟成キムチの酸味がその香りを中和する、という説明が実用ガイド系の情報源でも紹介されています。単体のホンオフェだと最初のハードルが高く感じられても、サマプの形なら味のバランスが取りやすく、初めての人にもすすめやすい食べ方です。全羅南道の郷土料理として紹介される場面でも、単品のホンオフェよりサマプの形で登場することが多いようです。
発酵の強さは選べる——弱め・中くらい・強めの三段階
「ホンオは強烈な匂いの食べ物」と一括りにされがちですが、実際には発酵の進み具合によって匂いの強さが段階分けされています。目安として、匂いが控えめで刺身に近い약삭힘(弱め発酵)、香りがはっきり立つ中くらいの段階、そしてアンモニア香がかなり強い段階まで、三段階で語られることが多いようです。初めての人がいきなり一番強い段階に挑戦する必要はまったくありません。

体感でいうと、弱め発酵の一切れは切手2枚分くらいの大きさから試せば十分で、無理に大きく切り分けてもらう必要はありません。強い段階に挑戦するのは、弱め・中くらいを試して「思ったより平気そう」と感じてからでも遅くないはずです。段階名は店によって呼び方が多少違うこともあるため、注文の際は「におい弱めのものはありますか」と直接聞いてしまうのが確実です。
初めてでも失敗しない頼み方・食べる順番
初めてホンオフェに挑戦するなら、頼み方と食べる順番を先に決めておくと気持ちが楽になります。まず注文の時点で「弱め発酵」を希望と伝えること。次に、パックや器のふたを開けたら、すぐに口へ運ばず数分待つこと。目安として5分ほど置くと、表面にこもっていた香りがある程度和らぐとされています。コーヒーを一口飲むくらいの時間感覚で構えておくとよさそうです。
- まずホンオフェを少量、酢コチュジャン(초장)につけて味を確かめる
- 熟成キムチの上に茹で豚、その上にホンオを乗せてサマプとして一度に食べる
- 単体で連続して食べず、キムチ・豚肉と交互に挟む
- 慣れてきたら和え物やスープなど、ほかの調理法にも挑戦してみる
サマプを頼むと、テーブルにはキムチ以外にも数種類のパンチャン(밑반찬)が一緒に並ぶことが多く、ホンオの香りが強いときほど、これらの副菜を挟みながら食べると口の中をリセットしやすくなります。パンチャンのおかわりができるかどうかは店によってルールが分かれるため、韓国の食堂のパンチャンおかわり事情をまとめた記事も、あわせて目を通しておくと当日困りにくいはずです。注文まわりで意外とつまずきやすいのが、韓国の食堂特有の注文ルールです。サマプのような取り分け前提のメニューは、1人前だけでは注文を受け付けてもらえないお店もあります。この手の「何人前から頼めるか」というルールは韓国の食堂の2人前ルールを整理した記事で扱っているので、事前に目を通しておくと、当日の会話がスムーズになるはずです。注文フレーズそのものに自信がない人は韓国語での注文の仕方をまとめた記事もあわせて確認しておくと安心感が違います。
どこで食べる?本場とソウルで探すときの考え方
「結局どこで食べればいいのか」という一番気になる部分ですが、まず候補になるのが本場とされる木浦(モッポ)・羅州(ナジュ)エリアです。産地に近い分、専門店の選択肢も多いとされ、ホンオフェを目的にした旅程を組む人はこのエリアを目指すことが多いようです。この地域へのアクセスとしては、무안(ムアン)空港が最寄りの空港のひとつになります。空港の運航状況は変わることがあるため、渡航前にはムアン空港の運航状況をまとめた記事で最新の情報を確認しておくことをおすすめします。
ソウル市内で探す場合は、全羅南道の郷土料理を扱う南道(남도)料理の専門店や食堂が候補になります。NAVER地図やカカオマップで「홍어」または「삼합」と検索し、口コミの日付が新しいか、営業時間の表示があるかを確認したうえで、訪問前に電話などで最終確認を取るのが安全です。人気の専門店では事前予約を求められることもあるため、韓国の飲食店予約の一般的なコツをまとめた記事も参考にしてみてください。全羅南道の郷土料理といえば、チヂミに近いジョン(전)も名物のひとつで、こちらはソウルのジョン専門店を整理した記事のほうが、ホンオフェよりも気軽に試しやすいはずです。
飲食店の営業状況・移転・閉店は今後も変わる可能性があります。この記事で特定の店舗名を挙げていないのはそのためです。訪問前には必ず地図アプリや電話で最新の営業状況を確認してください。
よくある質問
まとめ——仕組みを知れば怖くない
ホンオフェの強烈な匂いは、腐敗ではなく、体内にためこんだ尿素がアンモニアに分解される発酵の仕組みによるものでした。強アルカリ性のアンモニアが雑菌の繁殖を抑えるからこそ、防腐剤なしでも保存が利く食べ物として伝わってきた、という背景を知っておくと、身構え方がだいぶ変わるはずです。獲れる場所とされる黒山島と、名産地として知られる羅州がずれているのも、この食文化ならではの面白いポイントです。
- 匂いの正体は、体内の尿素が分解されてできるアンモニア。発酵であって腐敗ではない
- 発酵度合いは弱め・中くらい・強めの三段階。初めては弱めを希望と伝える
- 単体より、茹で豚と熟成キムチを合わせたサマプ(삼합)のほうが挑戦しやすい
- 本場は木浦・羅州エリア。ソウルで探す場合は地図アプリで最新の営業状況を必ず確認する
「匂いが強い変わった食べ物」という入り口から、発酵の仕組みや地域の背景まで知ってみると、ホンオフェは単なる罰ゲーム食材ではなく、韓国の食文化の奥行きを感じられる一皿に見えてくるはずです。挑戦するかどうかは好み次第ですが、仕組みを知ったうえで選ぶのと、知らずに身構えるだけなのとでは、当日の気持ちの余裕がかなり違うのではないでしょうか。
参考・出典
- ko.wikipedia.org「삼합 (음식)」https://ko.wikipedia.org/wiki/삼합_(음식) (2026年9月13日確認)
- ko.wikipedia.org「홍어」https://ko.wikipedia.org/wiki/홍어 (2026年9月13日確認)
- English Wikipedia「Hongeohoe」https://en.wikipedia.org/wiki/Hongeohoe (2026年9月13日確認)
- 홍어백과「홍어 먹는법 초보자 가이드」https://hongeobakgwa.com/guide/hongeo-beginners-guide/ (2026年9月13日確認)
- 10000recipe.com「홍어 맛있게 먹는법 홍어삼합」https://www.10000recipe.com/recipe/7018301 (2026年9月13日確認)
- 람프쿡「홍어삼합 레시피 전남 향토음식 조리법」http://www.lampcook.com/food/food_local_view.php?idx_no=2456 (2026年9月13日確認)

