韓国のクリニックで施術のあとに薬が出る。ここで日本と違うのは、診察室で薬をもらうのではなく、処方箋を持って薬局へ行くことです。韓国は医薬分業で、医師は処方、薬剤師は調剤と役割が法律で分かれています。処方箋には使用期間が書かれていて、その期間を過ぎると薬局は受け付けられません。渡韓の日程が短い人ほど、この段取りを先に知っておく価値があります。
本記事は公的情報・公式情報をもとにした情報提供であり、特定の施術や医療機関を勧めるものではありません。医療上の判断は必ず医師にご相談ください。薬の効果・安全性・適否は扱いません。
①韓国では薬剤師・韓薬剤師でなければ医薬品を調剤できず、医師は処方、薬剤師は処方箋どおりの調剤という分業です(薬事法第23条)。医師が自分で調剤できるのは注射など限られた場合だけ。②処方箋は2部発給され、発給年月日と使用期間が書かれます(医療法施行規則第12条)。③薬局の薬剤師は正当な理由なく調剤を拒めず、調剤したら口頭または書面で服薬指導をします(薬事法第24条)。④成分・含量・剤形が同じ薬への代替調剤があり、その場合は患者にすぐ知らせることになっています(第27条)。⑤薬局は処方箋を2年、調剤記録を5年保存し、本人は調剤記録の閲覧を請求できます(第29条・第30条)。
医師は処方、薬剤師は調剤——法律で分かれている
出発点は薬事法第23条です。
薬事法 第23条第1項
薬剤師および韓薬剤師でなければ医薬品を調剤することができず、薬剤師および韓薬剤師はそれぞれ免許の範囲で医薬品を調剤しなければならない。
同 第3項
医師または歯科医師は専門医薬品と一般医薬品を処方することができ、薬剤師は医師または歯科医師の処方箋に従って専門医薬品と一般医薬品を調剤しなければならない。……
これが韓国の医薬分業(의약분업)です。医師が処方箋を書き、患者がそれを薬局に持っていき、薬剤師が処方箋どおりに調剤する。クリニックの中で薬を渡す形は、原則としてこの条文の外です。
例外は第4項に並んでいます。医師が自分で調剤できるのは、薬局がない地域、災害時、応急患者、入院患者、注射剤を注射する場合、予防接種薬・診断用医薬品などで、これは主な例です(条文は14号まであります)。通常の外来でいえば、その場で注射する薬は医師が扱え、持ち帰る飲み薬や塗り薬は処方箋を薬局に出して受け取る——という切り分けが、この条文から出てきます。処方箋の様式にも「注射剤の処方明細」欄があり、院内調剤か院外処方かを印で分ける作りになっています。
第23条第1項に違反して薬剤師でない者が調剤すると、第93条第1項により5年以下の懲役または5千万ウォン以下の罰金です。分業は罰則で支えられています。

処方箋は2部。発給日と使用期間が書かれる
医師側の義務は医療法第18条第1項です。患者に医薬品を投与する必要があると認めたときは、自分で調剤できる場合を除いて処方箋を作成して患者に渡す(電子処方箋なら送る)ことになっています。書く中身は施行規則第12条が決めています。
医療法施行規則 第12条第1項(処方箋の記載事項・抜粋)
- 1. 患者の氏名および住民登録番号
- 2. 医療機関の名称、電話番号およびファックス番号
- 3. 疾病分類記号(患者が求めた場合は記載しない)
- 4. 医療人の氏名・免許の種類および番号
- 5. 処方医薬品の名称・分量・用法および用量
- 6. 処方箋の発給年月日および使用期間
- 7. 医薬品の調剤時の参考事項
同 第2項
医師または歯科医師は、患者に処方箋2部を発給しなければならない。ただし、患者がその処方箋を追加で発給するよう求める場合には、患者が希望する薬局へファックス・コンピュータ通信などを利用して送付することができる。
ここで押さえるのは2点です。
- 2部 … 韓国の処方箋は「薬局提出用」と「患者保管用」の2部が原則です。疾病管理庁の案内は、大きな病院ではおおむね2枚を渡すが、1枚しか渡さない病院もあると書いています。1枚なら患者保管用を頼むか、薬局に出す前に写真を撮っておく——手元に残る1部が、帰国後の記録になります。
- 使用期間 … 処方箋には発給年月日と使用期間が書かれます。様式(別紙第9号書式)の欄は「発給日から( )日間」で、「使用期間内に薬局に提出しなければなりません」と注記されています。何日と書かれているかは処方箋ごとに違うので、受け取ったらまず使用期間を見る——渡韓の日程が短いなら、これがいちばん実務的な確認です。
第3号の疾病分類記号は「患者が求めた場合は記載しない」とあります。処方箋に病名のコードを載せてほしくなければ、頼めば外せる、という条文です。
🚨 処方箋を書けるのは、直接診察した医師だけです(医療法第17条の2第1項)。そして、直接診察を受けた患者でなければ処方箋を受け取れません。同行者が代わりに受け取れるのは、患者に意識がない場合などに限って、直系の親族や配偶者など政令で定める代理受領者に限られます(同条第2項)。「代わりにもらってきて」は原則できない仕組みです。
薬局は調剤を断れない。そして服薬指導をする
薬事法 第24条第1項
薬局で調剤に従事する薬剤師または韓薬剤師は、調剤の要求を受けたときは正当な理由なく調剤を拒否することができない。
同 第4項
薬剤師は医薬品を調剤したときは、患者または患者の保護者に必要な服薬指導を口頭または服薬指導書(服薬指導に関する内容を患者が読みやすく理解しやすい用語で説明した書面または電子文書をいう)で行わなければならない。
どの薬局でもよい、が原則です。処方箋を出されたクリニックの近くの薬局である必要はなく、正当な理由がなければ断られません。逆にいえば、クリニックが特定の薬局を指示することは、第24条第2項第3号が談合行為として禁じています(患者の求めに応じて地域の薬局を一覧で案内するのは除く)。「あの薬局へ行って」と一つに絞って言われたら、条文上は本来ないはずの案内です。
そして服薬指導は義務です。ハングルで口頭説明されて分からないときは、服薬指導書(복약지도서)の形で書面でもらうことを条文が想定しています。第24条第1項の調剤拒否は第95条第1項により1年以下の懲役または1千万ウォン以下の罰金です。
「処方と違う薬」に見えたら——代替調剤の仕組み
薬局で受け取った薬の名前が処方箋と違う。これは韓国では制度上ありうることです。
薬事法 第27条第1項
薬剤師は、医師または歯科医師が処方箋に書いた医薬品を、成分・含量および剤形が同じ他の医薬品に代替して調剤しようとする場合には、あらかじめその処方箋を発行した医師または歯科医師の同意を受けなければならない。
同 第2項(抜粋)
第1項にかかわらず、薬剤師は次のいずれかに該当すれば事前の同意なく代替調剤をすることができる。
1. 食品医薬品安全処長が生物学的同等性があると認めた品目に代替して調剤する場合。ただし、医師または歯科医師が処方箋に代替調剤が不可という表示をし、臨床的事由などを具体的に書いた品目は除く。……
同 第3項
薬剤師は、代替調剤をした場合には、その処方箋を持つ者に直ちに代替調剤した内容を知らせなければならない。
要点は3つ。成分・含量・剤形が同じものに限ること、医師が処方箋に「代替不可」と書いていれば代えられないこと、そして代えたら患者にすぐ知らせること。薬の名前が違って不安になったら、「대체조제(代替調剤)ですか」と聞けば、条文上は説明があるはずの場面です。第4項は、第2項の代替調剤をした場合に医師へ1日以内(やむを得ない場合は3日)に通報することを原則としています(事前に同意を得ていた場合などの例外は施行規則にあります)。
なお第26条第1項は、薬剤師が医師の同意なく処方を変更・修正して調剤することを禁じています。代替調剤は「同じ成分の別製品」の話で、処方そのものを変える話ではありません。

記録は残る。本人は見られる
薬事法 第29条
薬剤師または韓薬剤師が薬局で調剤した処方箋は、調剤した日から2年間保存しなければならない。
同 第30条第1項(抜粋)
薬剤師は薬局で医薬品を調剤したときは、患者の人的事項、調剤年月日、処方薬品名と日数、調剤内容および服薬指導内容などを調剤記録簿に記入して5年間保存しなければならない。
同 第2項
患者は薬剤師に本人に関する記録の閲覧または写しの発給など、その内容の確認を要請することができる。この場合、薬剤師は正当な理由なくこれを拒否してはならない。
薬局の調剤記録についても、本人は閲覧・写しを請求できます。クリニック側のカルテの請求手続と保存年限は書類と手数料を整理した記事にまとめました。医療機関側の処方箋の保存は2年で、こちらも同じ記事にあります。
渡韓する患者としての段取り
- 処方箋が出るかどうかを施術前に確かめる … 持ち帰る薬があるなら薬局へ行く時間が要ります。宿とクリニックの動線はカンナムで通いの宿を選ぶ記事に
- 受け取ったら使用期間を見る … 期間内に薬局へ。帰国便の前日に出た処方箋なら、その日のうちに動くほうが安全です。連休をまたぐときの注意は秋夕の記事に
- 2部のうち患者保管用は捨てない … 帰国後に日本の医師にかかるときの材料になります
- 服薬指導は書面でも頼める … 口頭で分からなければ服薬指導書を
- 薬の名前が処方箋と違ったら「대체조제ですか」 … 同じ成分・含量・剤形なら制度上ありうること。説明を受ける権利があります
- 日本へ持ち帰る数量には別の決まり … 厚生労働省の個人輸入の枠は薬の持ち帰りの記事に。処方箋薬は用法用量からみて1か月分以内が目安です
薬局そのものの探し方——営業時間、休日・夜間の探し方、コンビニで買える薬——は韓国の薬局の記事で扱っています。この記事は「クリニックの処方箋がどう薬になるか」の制度に絞りました。
この記事で答えられないこと
- 使用期間が空欄の処方箋の扱い——様式には「発給日から( )日間」の欄と「使用期間内に薬局に提出」の注記がありますが、空欄のときに何日と読むかを定めた注記は様式にありませんでした。この記事では決めていません。
- 個別の薬の効果・安全性・適否——扱いません。処方元と薬剤師に確認してください。
- 薬の値段——健康保険に入っていない外国人の薬剤費がどう決まるかは、この記事では扱っていません。
- 電子処方箋の運用——医療法第18条は電子処方箋の送付を認めていますが、外国人患者がどう使えるかは確認していません。
- 2026年12月以降の非対面診療での処方——医療法第34条の2の施行後は処方箋を患者が指定した薬局に送れる条文(第6項)が入りますが、薬の配送を認める第34条の5は対象患者を限定した別の条文です。外国人患者へのオンライン診療は、2027年5月27日施行の医療海外進出法第16条の2で別に定まります(帰国後のオンライン診療の記事)。
よくある質問
まとめ
- 韓国は医薬分業。薬剤師でなければ調剤できず、医師が自分で調剤できるのは注射など限られた場合(薬事法第23条)。
- 処方箋は2部、発給年月日と使用期間が書かれる(医療法施行規則第12条)。期間内に薬局へ。
- 処方箋を受け取れるのは直接診察を受けた本人(医療法第17条の2)。
- 薬局は正当な理由なく調剤を拒めず、服薬指導は口頭または書面(薬事法第24条)。クリニックが薬局を指示するのは談合として禁止。
- 同じ成分・含量・剤形への代替調剤があり、代えたら患者に直ちに知らせる(第27条)。
- 薬局は処方箋2年・調剤記録5年を保存し、本人は閲覧を請求できる(第29条・第30条)。
情報源と確認日
- 国家法令情報センター「약사법」[시행 2026. 6. 21.] 법률 제21109호(第23条・第24条・第26条・第27条・第29条・第30条・第50条・第93条・第95条)https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=279725&chrClsCd=010202&urlMode=lsInfoP&efYd=20260621&ancYnChk=0 (入口は https://www.law.go.kr/법령/약사법 /2026年9月6日確認)
- 国家法令情報センター「의료법」[시행 2026. 4. 7.] 법률 제21524호(第17条の2・第18条)https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=285327&chrClsCd=010202&urlMode=lsInfoP&efYd=20260407&ancYnChk=0 (2026年9月6日確認)
- 国家法令情報センター「의료법 시행규칙」[시행 2026. 6. 12.] 보건복지부령 제1177호(第12条・別紙第9号書式「처방전」 https://www.law.go.kr/LSW/flDownload.do?bylClsCd=110203&flSeq=116343635&gubun= )https://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=286963&chrClsCd=010202&urlMode=lsInfoP&efYd=20260612&ancYnChk=0 (2026年9月6日確認)
- 疾病管理庁 国家健康情報ポータル「처방전과 약설명서 읽는 방법!」(2026-08-13更新)https://health.kdca.go.kr/healthinfo/biz/health/gnrlzHealthInfo/gnrlzHealthInfo/gnrlzHealthInfoView.do?cntnts_sn=3607 (2026年9月6日確認)

