韓国で美容医療を調べていると、「外国人は付加価値税が還付される」という説明にぶつかります。日本語の記事にも、クリニックの案内にも、まだ残っています。ところがこの制度は適用期限が切れています。いつ、どういう形で終わったのか。そして「延長される」という話がどこまで進んでいるのか。法令の原文と国会の議案情報から整理します。
本記事は公的情報・公式情報をもとにした情報提供であり、特定の施術や医療機関を勧めるものではありません。医療上の判断は必ず医師にご相談ください。税務上の取り扱いは個別の事情で変わります。
①韓国では医療は原則として非課税ですが、付加価値税法施行令第35条第1号のただし書きに列挙された診療役務だけが非課税から外され、10%がかかります。二重・鼻・脂肪吸引・しみ・脱毛・タトゥーなどが名指しで並んでいます。「美容だから課税」ではなく「一覧にあるから課税」です。②その税額を外国人観光客に還付する特例(租税特例制限法第107条の3)は「2025年12月31日までに提供を受けた」分が対象で、2026年以降に受けた施術は対象外です。③条文自体は削除されていません。期限だけが切れた状態です。④延長する法案は2026年8月31日時点で4本が国会に出ていますが、4本とも可決されていません。⑤いっぽう宿泊の還付特例は2028年12月31日まで生きています。
「免税」と「還付」は別のものです
先に言葉を分けておきます。日本語では「韓国の美容医療は免税」とまとめて呼ばれがちですが、韓国の制度としては2つがはっきり別物です。
- 非課税(면세) … そもそも付加価値税がかからない。治療目的の医療はこちらです
- 還付(환급) … いったん10%を払って、後から返してもらう。美容目的の医療にあったのはこちらです
終わったのは後者の還付のほうです。美容施術はもともと非課税ではなく、いまも10%は課税されています。変わったのは「返ってくるかどうか」だけ、ということになります。
なぜ美容医療に税がかかるのか
韓国の付加価値税は日本の消費税に当たるもので、税率は10%です。医療は原則として非課税ですが、その中身は法律本体には書かれていません。付加価値税法第26条第1項第5号は非課税の対象を「医療保健役務…として政令で定めるもの」とだけ書いて、政令に投げています。そして「非課税から外す施術」が、その政令に名指しで並んでいます。付加価値税法施行令第35条第1号のただし書きです。
付加価値税法施行令 第35条第1号 ただし書き(非課税にならない診療役務)
イ号(成形手術系)
二重まぶた手術、鼻の成形手術、乳房の拡大・縮小術(乳がん手術による乳房再建術は除く)、脂肪吸引術、しわ取り術、顔面輪郭術、歯の成形(歯のホワイトニング・ラミネート・歯ぐきの整形をいう)などの成形手術、および顎顔面矯正術
除外成形手術による後遺症の治療、先天性奇形の再建手術、腫瘍除去にともなう再建手術/歯列矯正治療が先行する顎顔面矯正術
ロ号(皮膚系)
色素性母斑・そばかす・黒色点・肝斑の治療術、にきび治療術、脱毛術、薄毛治療術、植毛術、タトゥー施術およびタトゥー除去術、ピアッシング、脂肪溶解術、皮膚再生術、皮膚美白術、抗老化治療術、毛穴縮小術
この一覧には、はっきりした作られ方があります。条文のただし書きは「『国民健康保険法』第41条第4項により療養給付の対象から除外される次の各目の診療役務は除く」という書き出しです。つまり健康保険が効かないものとして外された診療が、そのまま非課税からも外されている——保険の線引きと税の線引きが連動している、という構造です。
🚨 ここは読者が誤解しやすいところです。「美容だから課税」ではなく、「この一覧に載っているから課税」です。同じ手術でも、後遺症の治療・先天性奇形の再建・腫瘍除去にともなう再建は一覧から外されて非課税に戻ります。乳房再建も同じ扱いです。
つまり韓国のクリニックで美容施術の見積もりを見るとき、この10%が乗っているかどうかが価格の読み方に効いてきます。表示が税込か税抜かは医院によって違うので、費用の調べ方そのものは費用の調べ方をまとめた記事を見てください。

還付特例とは何だったのか
その10%を、外国人観光客にかぎって返す仕組みがありました。租税特例制限法第107条の3「外国人観光客の美容成形医療役務に対する付加価値税還付特例」です。条文が新設されたのは2015年12月15日、施行令の手続き規定は2016年2月5日に置かれました。
租税特例制限法 第107条の3 第1項(抜粋・訳)
政令で定める外国人観光客が、「医療海外進出および外国人患者誘致支援に関する法律」第6条第1項により登録した医療機関(特例適用医療機関)で2025年12月31日までに提供を受けた政令で定める医療役務については、政令で定めるところにより、その付加価値税額を還付することができる
仕組みは3ステップでした。
- 医療機関が確認書を出す … 特例適用医療機関が医療役務供給確認書を患者に交付し、同じ内容を還付窓口運営事業者へ電子的に送信する(第2項)
- 患者が3か月以内に出す … 還付を受けようとする外国人観光客は、役務の提供を受けた日から3か月以内に還付窓口運営事業者へ確認書を提出する(第3項)
- 不正があれば医院が払う … 対象外の役務で還付を受けた場合や、医院が事実と異なる確認書を交付した場合、税務署長はその医療機関から税額と加算税を徴収する(第4項)
もうひとつ、条文を読むとわかることがあります。施行令第109条の3第2項は、還付の対象になる場面を①登録した医療機関または登録した外国人患者誘致業者が直接、外国人観光客を誘致した場合と②外国人観光客が自分で特例適用医療機関を訪ねた場合の2つに分けています。仲介を通していなくても対象でした。自分で予約して行った人が外れる作りではなかった、ということです。
「還付窓口運営事業者」という耳慣れない言葉も、正体は難しくありません。施行令第109条の3第3項・第4項は、この事業者の要件や指定手続き、還付の手続きについて「外国人観光客等に対する付加価値税および個別消費税特例規定」を準用すると定めています。空港や市中の免税払戻カウンターと同じ枠組みを、医療にも引いてきたものだったわけです。条文は「免税物品を購入した時」を「還付対象医療役務の提供を受けた時」に、「免税販売者」を「特例適用医療機関」に読み替える、という書き方をしています。
🚨 どこの医院でも還付されたわけではありません。対象は登録された医療機関(特例適用医療機関)で受けたものだけでした。しかも施行令第109条の3第2項は、還付対象を「付加価値税法施行令第35条第1号のただし書きにより非課税にならない医療役務」と定義しています。一覧に載っていることは条件のひとつにすぎません。これに加えて、政令が定める外国人観光客であること/特例適用医療機関で受けたこと/誘致または本人の直接来院であること/期限内に提供を受けたことがすべて必要でした。登録医療機関の調べ方は登録医療機関の調べ方をまとめた記事にあります。
いつ、どういう形で終わったのか
ここが本題です。条文は法律から削除されていません。いまも現行法(2026年7月1日施行版)に第107条の3は載っています。終わったのは適用の期限です。
第1項の改正履歴を並べると、この制度の性格がわかります。
第107条の3第1項の改正履歴(条文に併記されているもの)
2016年12月20日/2017年12月19日/2018年12月24日/2019年12月31日/2020年12月29日/2022年12月31日
年末ごとに期限を延ばしてきた条文で、最後の改正は2022年12月31日。そのときに「2025年12月31日まで」となりました。
その後、期限は延びていません。2025年12月23日にも租税特例制限法の改正(法律第21223号)がありましたが、第107条の3のどの項にも「改正 2025年12月23日」は併記されていません。
しかも、この条文が忘れられていたわけではありません。同じ第107条の3の第2項は、2025年10月1日に改正されています(確認書を還付窓口運営事業者へ電子的に送信する、という部分です)。手続きの規定は2025年中に手を入れられたのに、期限だけは延ばされなかった——条文の改正注記を並べると、そう読めます。
🚨 対比するとはっきりします。同じ2025年12月23日の改正で、外国人観光客の「宿泊」に対する還付特例(第107条の2)は改正されています。こちらの期限は2028年12月31日まで。宿の還付は生きていて、美容医療の還付は切れた——同じ法律の隣り合った条文で、扱いが分かれました。
手続きの側から見ても、いま使える余地は見当たりません。還付の請求は提供を受けた日から3か月以内と第3項が定めています。条文どおりに数えれば、2025年12月31日に受けた施術でも2026年3月31日で請求できる期間は終わっていることになります。施行令第109条の3と、そこが準用する「外国人観光客等に対する付加価値税および個別消費税特例規定」も見ましたが、この3か月を延ばす定めは見当たりませんでした(見落としの可能性は残ります)。

延長法案は、いまどこにあるのか
「延長されるらしい」という話は本当です。ただしまだ法律になっていません。国会の議案情報システムで第107条の3の延長を内容とする法案を検索すると、2026年8月31日時点で4本が「係属議案」として残っています。
租税特例制限法一部改正法律案(第107条の3の延長を内容とするもの)
議案2212306(2025年8月22日提案) … 2026年12月31日まで/所管委受付
議案2213460(2025年10月2日提案) … 2028年12月31日まで/所管委受付
議案2218234(2026年4月10日提案) … 2027年12月31日まで/所管委受付
議案2220579(2026年8月13日提案) … 2029年12月31日まで/回付
4本とも「係属議案」。可決されたものはありません(2026年8月31日確認)。
提案理由の書きぶりも、制度が終わったことを裏づけています。2026年4月に提出された議案2218234の提案理由には、「当該付加価値税還付特例が2025年12月31日付で終了したことにより、グローバル医療観光市場でわが国の価格競争力が低下し、外国人患者誘致の原動力が弱まったという指摘が提起されている」と書かれています。国会議員の側が「終了した」と書いているということです。
2025年10月提出の議案2213460の提案理由には、外国人患者数の推移や還付件数の数字も挙げられています。ただしこれは法案の提案理由に書かれた数字であって、政府統計の原典そのものではありません。本記事では制度の経過を示す範囲でだけ触れ、数値としては使いません。
延長の期限案が「2026年末」「2027年末」「2028年末」「2029年末」とばらけていることからも、どこに落ち着くかは決まっていないことが読み取れます。渡航のタイミングを還付ありきで組むのは、いまは避けたほうが確実です。
登録先について、条文どうしが食い違って見える件
細かい話ですが、日本語の記事によって書いてあることが違うので触れておきます。
租税特例制限法第107条の3第1項は、対象を「医療海外進出および外国人患者誘致支援に関する法律第6条第1項により保健福祉部長官に登録した医療機関」と書いています。ところが、その参照先である医療海外進出法第6条第1項の現行条文は「特別市長・広域市長・特別自治市長・道知事または特別自治道知事(以下「市・道知事」という)に登録しなければならない」です。この項には「改正 2020年2月18日」が併記されています(同条第2項・第5項にも同じ日付が併記されています)。
🚨 登録制度そのものが無くなったわけではありません。租税特例制限法の側の文言が、参照先の改正に追いついていないだけです。いま登録するなら市・道知事で、これは通訳の頼み方を整理した記事で扱った誘致登録と同じ枠組みです。日本語の記事に「保健福祉部長官」と書いてあるのは、租税特例制限法の条文をそのまま訳したためだと考えられます。
では、いま何が変わるのか
読者の立場で変わることは、それほど多くありません。整理します。
- 支払う金額は変わらない … 還付は「いったん払って後から返してもらう」仕組みでした。窓口で払う額そのものは、還付があった時期も同じです
- 戻ってこない … 変わったのはここだけです。2026年以降に受けた施術は、確認書を出してもらっても還付の対象になりません
- 案内が古いままのことがある … クリニックや代理店の日本語ページに「税還付あり」と残っている可能性があります。見積もりの段階で確認するのが確実です。そのとき支払い方法(カード・現金)の決まりもあわせて聞いておくと二度手間になりません
- 宿泊は別 … 観光宿泊施設での30日以下の宿泊は、第107条の2により2028年12月31日まで還付の対象です(施設の要件があります)
費用そのものの読み方は費用の調べ方をまとめた記事、まとめ払いのパッケージを買うときの注意は前払いと返金を整理した記事にあります。渡航全体の確認順序はこちらの記事にまとめてあります。
リスクをどう考えるか
この記事は税の条文だけを扱うので、施術そのものの効果・安全性・ダウンタイムは評価しません。施術に関するリスクの考え方は韓国の美容医療の確認順序をまとめた記事に置いてあります。ここでは、この話題に固有のリスクだけを3つ挙げます。
- 古い案内が残っている … 還付は2016年から2025年まで10年近く続いた制度でした。その間に書かれた日本語の記事、代理店のページ、クリニックの日本語案内には「税還付あり」がそのまま残っている可能性があります。制度が終わったのは2025年末なので、更新日がそれより前の情報はすべて疑うのが安全です
- 「還付込み」で見積もりを読んでしまう … 還付は後から返る仕組みだったので、実質負担を10%低く見積もる計算が出回っていました。いまその10%は戻りません。見積もりを比べるときは、還付を差し引かない金額で並べてください
- 「延長された」という情報の早とちり … 法案が出ることと、法律になることは別です。いま出ている4本は全部まだ委員会にあります。国会の議案情報システムでは議案番号で状態を確認できるので、「延長された」という記事を見たら議案番号と可決日が書いてあるかを見てください
制度が変わったときに損をするのは、たいてい古い情報のほうを信じていた側です。税の話は金額に直結するので、確認日の新しい情報を取りにいく価値があります。
この記事で答えられないこと
- 延長法案が可決されるかどうか、いつ施行されるか。4本とも係属中で、期限案もばらけています
- 可決された場合に、2026年以降の分が遡って対象になるか。条文案の本文まで確認していないため書きません
- 個別の施術が一覧のどれに当たるか。施術名は医院ごとに違うため、課税か非課税かは医院と税務の判断になります
- 2025年内に受けた施術で還付を受けそこねた場合の救済。請求期間(3か月)の例外は条文に見当たりませんでした
よくある質問
まとめ
- 韓国では美容目的の医療に10%の付加価値税がかかる。対象は付加価値税法施行令第35条第1号ただし書きに名指しで列挙されている
- その税を外国人観光客に還付する特例(租税特例制限法第107条の3)は「2025年12月31日までに提供を受けた」分まで。2026年以降は対象外
- 条文は削除されていない。期限だけが切れている。最後に期限を延ばしたのは2022年12月31日の改正
- 2025年12月23日の改正でも延長されなかった。同じ改正で宿泊の還付特例(第107条の2)は改正され、2028年12月31日まで生きている。第107条の3のほうは第2項が2025年10月1日に改正されているので、条文が見過ごされていたわけではない
- 還付の請求は提供を受けた日から3か月以内。2025年内の施術でも請求できる期間は終わっている
- 延長法案は2026年8月31日時点で4本が係属中。延長先の案は2026年末から2029年末までばらけていて、可決されたものはない
- 対象は登録された医療機関だけだった。現行の登録先は市・道知事(同項に「改正 2020年2月18日」の併記あり)。租税特例制限法の条文は「保健福祉部長官」のままだが、これは参照先の改正に文言が追いついていないもの
「還付されるはずだった」と後から気づくより、見積もりの段階で税の扱いを聞いておくほうが確実です。制度が動いたら、この記事も直します。
この記事の情報源と確認日
- 国家法令情報センター「조세특례제한법」[시행 2026. 7. 1.] 법률 제21223호(第107条の2・第107条の3) https://www.law.go.kr/법령/조세특례제한법 (2026年8月31日確認)
- 国家法令情報センター「조세특례제한법 시행령」[시행 2026. 7. 1.] 대통령령 제36423호(第109条の3) https://www.law.go.kr/법령/조세특례제한법시행령 (2026年8月31日確認)
- 国家法令情報センター「부가가치세법 시행령」[시행 2026. 4. 1.] 대통령령 제36133호(第35条第1号ただし書き) https://www.law.go.kr/법령/부가가치세법시행령 (2026年8月31日確認)
- 国家法令情報センター「의료 해외진출 및 외국인환자 유치 지원에 관한 법률」[시행 2026. 5. 12.] 법률 제21112호(第6条第1項) https://www.law.go.kr/법령/의료해외진출및외국인환자유치지원에관한법률 (2026年8月31日確認)
- 大韓民国国会 議案情報システム 議案検索→文書検索(検索語「미용성형」)。議案番号2212306/2213460/2218234/2220579の提案理由および審査進行状態 https://likms.assembly.go.kr/bill/bi/bill/sch/detailedSchPage.do?detailedTab=billDocu (2026年8月31日確認。議案番号で再検索できます)
- 国家法令情報センター「외국인관광객 등에 대한 부가가치세 및 개별소비세 특례규정」[시행 2026. 1. 2.] 대통령령 제35947호(第10条の2・第10条の3) https://www.law.go.kr/법령/외국인관광객등에대한부가가치세및개별소비세특례규정 (2026年8月31日確認)
- 国家法令情報センター「부가가치세법」[시행 2026. 1. 2.] 법률 제21065호(第26条第1項第5号) https://www.law.go.kr/법령/부가가치세법 (2026年8月31日確認)

